筆者が下道を覚えた「レンタカー回送」その実態を紹介!キツイ?稼げる?(後編)

道尾マナブです。

前編ではレンタカー回送の仕組みと、業務の流れについて解説しました。

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今回は後編として、レンタカー回送のドライバーにはどうやってなるの?この仕事の良い点、悪い点は?キツイ?稼げるの?という疑問に答えていきます。

筆者はレンタカー回送などの経験を基に、関東の道路網を解説しています。

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回送ドライバーになるには?

インターネットで「レンタカー回送」と検索すると、すぐに複数の回送会社の求人募集がヒットします。主婦などにもオススメとのコメントを目にします。学生不可のことが多いようですが、それを除けば、たとえコミュニケーションが得意でなくても普通運転免許を取って一定期間経過してさえいればドライバーになれる、というのが私個人の印象です。働く先がなく困っている人無職の中高年の方でも気軽に始められるのではないかと思います(ただし、後述の「回送の難点・注意点・大変なこと」には要注意)。

私の場合は、「もっと道路を覚えたい」「車を運転できるバイトはないか?(※当時は学生でした)」 などと考えネットの求人サイトで検索して、この仕事をたまたま見つけました。私が応募した会社も現在は学生不可のようですが、当時はドライバーになることができました。また、普通免許取得後3年以上経過という条件もありました。

応募後、程なくして電話があり、採用面接の日程が決まりました。面接時に、履歴書銀行口座(報酬受取用)、証明写真(名札用)を用意し、面接では志望動機や予定稼働頻度などを聞かれたと思います。また、初回稼働までにJAFに入会することが条件でした。他の大手では、上下つなぎの作業服風の制服を着用するなど、色んな規則制約があるようでしたが、私の所属した会社は私服OKでした。

初回面接後そのまま実地講習として、面接してくれた回送会社の担当者の回送に同行しました。その時の回送は、某レンタカーの赤羽駅周辺店舗から横浜駅周辺店舗まででした。

回送の魅力・良い点・やりがい

融通が利く、自由がきく

自分の都合の良い時間で回送業務を引き受けることができるのは、この仕事の大きな魅力の一つです。「今夜、飲み会の予定がなくなった。じゃあ大学の授業が終わってから明朝まで回送やろうかな」と思い立ってメールを送れば、回送を2-3本走ることができるのです。

また、回送中は一人なので、好きな音楽をかけて大声で歌ったり、ラジオを聴いたり、(厳密には業務中の車内飲食は禁止ですが)お茶を飲んだりもできますし、時間に余裕があればスーパー銭湯温泉で汗を流せます。ご当地のグルメに舌鼓を打ったり、道の駅で車中泊をしたり(好き嫌いが分かれますが)、旅行気分も味わえます。

例えば、タクシー運転手は道路を覚えられる仕事の代表といえますが、二種免許を取る必要があり、業務中は色んな客を乗せて走らなければなりません。走行ルートや運転の仕方にクレームを付けられたりもするでしょう。車内に素性の知れない他人を乗せて走るのは、とても疲れそうです。タクシー運転と比べると、自由度の高い魅力的な仕事に思えませんか?笑

広域を運転できる

回送業務には、10km前後の短距離の仕事もありますが、多くの回送は1本で数十km〜200kmの道のりを走ります。これにより、私の場合は関東地方の広い範囲の一般道を縦横無尽に走ることができました。また、稼働期間が長ければより長距離を走る機会も増えます。例えば、「町田(東京)から泉佐野(大阪)」、「直江津(新潟)から熊谷(埼玉)」といった感じです。残念ながら、私が回送業務で東北や中国、四国、九州へ行くことはありませんでしたが、専業として回送ドライバーになれば、あるいは他の会社に所属すれば全国津々浦々を走れるかもしれません。

例えば、ピザ配達は正社員でなくアルバイトでも可能な仕事ですが、地域密着でエリアが限定されるため、遠くまで運転することはありません。

多様な車種を運転できる

色んなクルマを運転できるのは、レンタカーならではです。軽乗用車から、普通乗用車スポーツ車商用車、はては2tアルミトラック冷凍トラックセーフティーローダー(乗用車を積めるトラック)まで、ATMTも運転できました。最近ではトラックもATが増えていますが、MT車やカーナビを搭載していない車両もレンタカーには依然多くあります。

なお、普通免許は制度の変更が繰り返されており、免許取得のタイミングにより運転できる車種が異なるため注意が必要です。また、「AT限定」の条件付きの場合はMT車の回送を避けなければなりません。

色んな人が働ける

回送ドライバーは老若男女幅広く活躍していますが、中高年の男性・女性が多くいらっしゃるようです。

娘さん達が大学生になって、生活のためというんじゃなく好きなように仕事をしようと回送を始めた男性もいれば、人付き合いが苦手なのでコミュニケーションを取らずに一人で出来る仕事がいいということで回送をされている方もいらっしゃいました。基本的に運転が好きな方が多いと思います。

年齢に関わらず、それまでの仕事の経験や健康上の不安なども問われず、どんな方でも新たに始められる仕事ではないでしょうか。

ちなみに、私は医学部を卒業して初期研修医になったときに、レンタカー回送を辞めました。その時、回送で顔見知りになっていたオジサンドライバーさん達と社員さん(どなたも50-60代)が、新宿のゴミゴミした居酒屋で国家試験合格と就職のお祝いの会を開いてくれました。「これからは先生として頑張って!当直大変だと思うから使ってね」と、新品の白いランニングの下着を3枚、スーパーの袋にいれてプレゼントしてくれたのが忘れられません。今も大切に着ています。

回送の難点・注意点・大変なこと

雇われているわけではない

実は、回送ドライバーは会社との間で「業務委託契約」を結んでいる場合がほとんどです。ドライバーは個人事業主、いわば一人社長として回送業務の仕事を引き受けているというわけです。

回送会社に雇用されているわけではないので、 福利厚生がない、つまり健康保険雇用保険厚生年金などは一切ありません。回送ドライバーを専業とする場合は、自分で国民健康保険に加入し、老後に備えて個人年金や国民年金基金に加入するか十分に貯蓄する必要があります。また、万一病気やケガで働けなくなった場合、傷病手当金が貰えないため、仕事を休んでいる間の生活のために何らかの保険に入っておくか十分に貯蓄する必要もあるでしょう。

もちろん、収入は報酬として支給されて源泉徴収されていないため、確定申告が必要です。結局のところ、回送ドライバーは「自営業」ということです。回送会社の社員になれば上記の問題はクリアできますが、社員登用制度があるのかどうか私には分かりません。

稼ぎは決して多くない

回送では、端的にいうと稼げません!

距離に応じ、回送1本で報酬いくらと決まっていますが、その報酬はなかなか厳しい金額なのです。例えば、池袋から所沢まで回送した場合、回送料金は3,000円だったと思います(これが最低金額なので回送距離1kmでも同額)。しかし実は、回送料金とは依頼主(レンタカー会社)が回送会社に支払う料金のことです。私の所属していた回送会社では、ドライバーはその45%から事故保険料(200円/1回送)を差し引いた金額を報酬として受け取るため、報酬は1,150円です。

 報酬 = 回送料金 × 45% − 200円

同様に、例えば所沢〜高崎の報酬約2,000円、太田〜掛川で6,000円弱、東京〜大阪で約9,500円となります。私はよく大学通学の合間に、平日一晩だけ稼働することがありましたが、19時〜翌7時でどんなに多くても3本で報酬は5,000〜6,000円程度。お金が欲しいだけなら、24h営業のファーストフード店やコンビニでバイトした方が2倍効率的です。このように、電車での移動時間を加味しなくても時給換算で500円に満たないことはよくあります。ちなみに2017年10月現在の東京都の最低賃金は958円、全国最低の最低賃金は737円です。しかし前述のとおり、回送会社とは雇用関係にはないため、最低賃金制度は適用されません

専業とする場合、月4日休みとして、月に26日ほど稼働すれば報酬25万円に到達できるかもしれません。また、大型免許所持など付加価値があれば、30万円台も可能かもしれません。ただ、確定申告で所得税等を納付しなければなりませんので(住民税も然り)、可処分所得はその7-8割ほどになります。

一方で、通常遠くにドライブに出かけるのにはお金が掛かりますから、「車を遠くまで運転できて逆にお金が貰えるのであればラッキー」という(私のように)オメデタイ考え方が出来る方にとっては、たちまち魅力的な仕事に映ってくるでしょう。

ローリターンの割にハイリスク

車の運転には事故のリスクが付き物です。そのため、どの回送会社でも原則回送1本ごとに保険に入っており、私の所属していた会社では1本につき200円の保険料がドライバーの報酬から差し引かれています。しかし、「免責10万円」という条件があります。これは、例えば回送中に事故を起こして修理代24万円が発生した場合、ドライバーが10万円だけ払えば残り14万円は保険がカバーしてくれますよ、ということです。

回送のたびに200円の保険料を取られ、稼いでも月に20万円台の報酬(税引前)なのに、1事故で修理代10万円までは自己負担とは、なかなか厳しい環境ではありませんか。ただ、深夜に他の回送ドライバーと遭遇したり、社員さんと話したりする中で情報交換をすると、会社全体でみると度々事故が起こっているようであり、保険内容に対して保険料が割高になるのは仕方ないコトなのかもしれません。

また、運転時間と距離が長くなる分、交通違反の取り締まりを受けるリスクも高まります。他のドライバーには、オービスで速度違反を撮られ免停になった方がいますし、私自身も駐車違反を1度とられました。夜間路駐可の道路に駐車して自宅で仮眠を取っていたら、駐車禁止となる朝9時を回ってしまったためです。違反を起こさないように運転するのが大切ですが、違反を起こした場合の反則金減点も大きな痛手となります。

たしかに疲れる

金銭的なリスクだけでなく、健康上のリスクも大きいです。事故でケガをする恐れもありますし、何日も車中泊をしたり長時間運転したり、労働環境はあまり良くありません。1日に100km以上を一般道を走り続け、普通列車で移動し続けるのは、やっぱり疲労が溜まります。前述の通り、心身をリフレッシュするための福利厚生もありません。

まとめ

レンタカー回送は、広域で一般道を走ることができ、色んな種類のクルマを運転できる、魅力的な仕事です。一方、業務委託契約であり、報酬は少なく、過酷でややハイリスクな仕事でもあります。

読者の皆さんへ特にオススメはしませんが、この仕事が道を覚えるのに役立ったのは事実ですので、どんな仕事なのかをご紹介させていただきました!

以下の記事で、実際の回送スケジュールを再現してみました。

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この記事を書いた人 Wrote this article

道尾マナブ

茨城生まれの30代医師。東京都内で妻と幼子と暮らす。小さい頃から道路の絵をノートに描き続け、穴あけパンチのゴミに標識の絵を描き、大人になってからは休日にGoogleストリートビューで国内外をドライブして楽しむのが趣味。息子が道路に興味を示さず、東京スカイツリーのソラマチではトミカの店ではなくプラレールの店に入りたがるのが悩み。

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